MULTUM-IMGとは

戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」, 研究課題「超高分解能高速イメージング質量分析技術(質量顕微鏡)の構築」(代表者:内藤康秀)で開発し,現在も引き続き開発を進めています.マルチターン飛行時間型質量分析計の完全収束性をいかした投影型のイメージング質量分析計「MULTUM-IMG」で,空間分解能1um,質量分解能1万以上を同時に達成できる世界最高性能の装置です.

  • 動作原理説明用ムービー

イメージング質量分析とは

生命科学の研究や新規機能材料の開発では、試料に含まれる原子や分子を同定する化学分析に加えて、各原子・分子毎の空間分布を同時に、かつ高空間分解能で測定する技術の確立が切望されています。例えば、生命科学の分野では、タンパク質などの生体分子や生体内に投与された薬剤とその代謝産物などの空間分布を細胞スケールで測定することができれば、がん転移過程の解明や新薬の開発に大きく貢献することができます。また、電子デバイス分野では微小電子デバイスにおける新奇現象の深い理解によって電子デバイスの設計に大きな自由度を与え、産業界にも大きなインパクトを与えることができると期待されます。
このような測定を可能とする手法として最も有望であるのが質量分析による化学分析に空間分布の測定を組み合わせたイメージング質量分析法です。特に、生命科学の分野ではマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)と飛行時間型質量分析法を用いたイメージング質量分析の研究が各国で活発に進められており、国際的に競争の激しい領域となっています。

走査型と投影型

一般にMALDIによるイメージング質量分析は試料上でレーザーの集光位置を走査しながら各集光点での質量スペクトルを順次測定していき、全ての点における質量スペクトルを測定した後に各原子・分子毎の空間分布を画像化する走査型イメージング質量分析法を用いています。これは、従来から用いられていたMALDI質量分析装置をそのまま利用できるためです。しかし、走査型イメージング質量分析法ではレーザーの集光径によって空間分解能が10~100μm程度に制限されており、試料観察のスケールは組織レベルまでに限られています。また、レーザー集光点を走査して測定するために数~数十時間を要するという問題もあります。
これに対して、投影型イメージング質量分析法では、試料全面にレーザーを照射してイオン化させ、試料表面におけるイオンの空間分布を静電イオンレンズを用いてイオンの位置と飛行時間の両者を同時に測定可能な検出器に結像させます。投影型イメージング質量分析法では空間分解能がレーザー集光径に制限されず、集光点を走査する必要がないため、走査型と比べて高空間分解能で高速な測定が期待できます。しかし、投影型イメージング質量分析法は世界的に見ても開発例がほとんど無く、実現するための開発要素が多くあります。

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CRESTのプロジェクトでの研究開発内容

我々は細胞スケールでの観察が可能な投影型イメージング質量分析装置の実現を目標として以下の研究開発を行いました.

  1. 試料全面に均一な強度分布でレーザーを照射するための光学系、および通常用いられる紫外レーザーと比べてソフトなイオン化が期待できる中赤外レーザーの製作
  2. マトリックスを用いずにレーザー照射のみで生体高分子を脱離イオン化させる手法の開発
  3. 投影型でのイメージングを可能とするための、高指向性・低分散イオン抽出法の確立
  4. イオンの空間分布を保持したまま質量分解能を向上させることができ、生体試料のような複雑な混合物でも分析を可能とする、マルチターン飛行時間型質量分析計の設計・製作
  5. 試料表面でのイオンの空間分布を検出器に拡大投影する静電イオンレンズ系の設計・製作
  6. イオンの位置と飛行時間の両者を同時に測定可能な位置・飛行時間測定型イオン検出システムの開発

以上の項目を実施した結果、160μm×160μmの視野において空間分解能1μm、質量分解能(m/Δm)10,000、測定時間数10分で測定可能な、超高分解能高速イメージング質量分析技術の実現に成功しました。

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MULTUM-IMG関連論文など

MULTUM-IMG関連の学会発表